しくしくくれくれ……

頻く頻く くれくれ
頻く頻く くれくれ

仮初めの宴 泡沫の花火
生まれては消えゆく春の夢

誰が為の 花の台

頻く頻く くれくれ
頻く頻く くれくれ

纏う黒き衣 泡沫の役目
満ちては欠けてゆく 玉桂

半坐わかつ 花の台
誰が為にそこにある
宿世わかつための 花の台

 

〇頻く頻く:(絶え間なく。しきりに)
〇くれくれ:(怠らず身軽に働く。或いは「暗れ暗れ」であれば、心が暗く、悲しみに沈むなどの意。どちらでも意味は通るが、劇中の三日月宗近の行動を鑑みれば個人的には前者を推したい)
〇黒き衣:(これに続けて泡沫の役目という詞がこれを受けているため、文脈的には単に黒子の役目を担ってきたという意味合いであるように私は思う。妻はこれを僧侶の薄墨衣、つまり誰かを悼む弔意の表現だと解釈していた模様。それも面白い意見ではある)
〇台(うてな。仏や菩薩、極楽に往生した者が座る蓮台。四方を眺めるための高所。高殿の意)
〇半坐わかつ:(同じ蓮台に二人で座ること。妙法蓮華経・見寶塔品(けんほうとうほん)における釈迦牟尼仏と多寶如来の二仏共生など、本来は条件的に容姿・能力・権威が等しく優れているとみなされた者同士にのみ許されるものだが、転じて夫婦仲が良いことの表現などとしても用いられる。ちなみに「蓮台の半坐を分かつ」は、「一蓮托生」の類義語)
〇玉桂:(たまかつら。月の中にあるというカツラの木。また、月の異称)
〇宿世:(すくせ。過去の世。前世。前世からの因縁。宿縁。宿命)

 

意訳:
陰役として、絶え間なく働いてきた。
満ち欠けを繰り返す月のように、幾度も。幾度も。
三日月と名付けられ欠けたるを定められた己と同じく、自分が座する場所の隣にはぽっかりと空席がある。
この蓮台に共に座し、同じ目線、同じ運命を背負い、この空虚を埋めてくれる友は居ないのだろうか?

 

 手前勝手な意訳ではあるが、これを踏まえた上で泰衡や頼朝への「友よ」という呼びかけ。「お前のような友は居らぬ」と返される三日月の、その胸中を想像してみて欲しい。