三日月と泰衡の語らい

 全てを打ち明けることで泰衡に「正しい歴史」を歩ませようとする三日月。頼朝に対する洗脳行為などはあくまで最終手段であり、基本的には話して諭すスタンスであることが窺える。
義経殿のこと……くれぐれも」という泰衡の台詞があるため、この時既に三日月は義経の死を偽装し逃げ延ばせることを暗に約束していたのだろう。

 「形として残ったもの」である以上、藤原泰衡源義経を殺さなければならない。その役割と宿命を理解した上で、三日月に義経のことを託すことのできた泰衡は、おそろしく開明的で聡く賢い人物であろう。

 阿津賀志山異聞で描かれた彼が滑稽なほど愚かしい様だったのも、逆に本来の彼が聡明であったことを主張したかったが故の描写だったように思える。