修行へ旅立つ今剣

 阿津賀志山異聞では、かつての主への思いの深さ故に、うつむき、背を丸め、愛惜に泣き叫び、仲間たちにさえ刃を向けようとした今剣。

 その彼が、つはもの~では常に胸を張り、決してうつむくこと無く、涙こそ禁じ得ずとも全てを見届けた。その成長は瞠目に値するものだろう。

 

「このなまえに、ききおぼえは、ありませんか……?」

 

 自身の根幹も、義経への想いも全て揺るがす一言を発するその時ですら、うつむきかけこそすれど、彼はきちんと顔を上げていた。


 ゲーム本編で彼を極修行に送り出し、その内容の余りの救いのなさに修行に出したことを後悔した審神者も多かろう。私なども、初めて極修行に送り出したのが彼だったこともあり、闇堕ちしたともとれるその姿に気持ちが沈んだ。何度「行かせなきゃ良かったね」と思ったことか。幾度彼の中傷ボイスを「そんなことないよ」と否定したことか。

 だが、この今剣ならどうだろう。自身の非在を突きつけられたとて、絶望に囚われ心を闇に染めたりはしないのではないだろうか。

 何故なら彼は既に知っているのだ。自分には帰る場所があること。自分という存在を認めてくれる仲間たちが居ることを。

 

 ゲーム本編の設定を否定するわけではないが、そういった意味でこのお話は、今剣への救済の物語でもある。
 この舞台へ帰ってくる今剣は、様々な意味で一回りも二回りも成長を遂げていることだろう。


「かなしいことがあっても そのつぎに ぼくらがいるんだから!」